箭弓稲荷神社の彫刻

江戸時代に公儀彫刻師集団が手掛けた荘厳で臨場感に満ちた素木彫刻を観光ガイドが、分かりやすくご説明します。


拝殿 彫刻

平安を表す瑞鳥<鳳凰> "鳳"は雄、"凰"は雌
平安を表す瑞鳥<鳳凰> "鳳"は雄、"凰"は雌

拝殿正面に定置された"目貫の龍"。
元来、"目貫"とは刀装具で最も目につく箇所のところをいいます。刀の身が柄(つか)から抜けないように柄と茎(なかご)の穴を差し留める目釘を覆う金具のことをいいます。

三条小鍛冶 (小狐丸)
三条小鍛冶 (小狐丸)

木鼻彫刻

神獣・貘(バク)は、悪夢や刀/槍先などの金属を食する...このことから、争いのない平安な世を希求しています。

蟇股彫刻

蟇股彫刻・木菟(みみずく)
蟇股彫刻・木菟(みみずく)
本殿内部に木菟の彫刻がほどこされています。木菟は夜間における守神鳥で、学問の神として信仰されています。このため、多くの神社で見かける彫刻です。

尾垂木彫刻

箭弓稲荷神社の本殿・尾垂木(おだれぎ)彫刻には、最上段が蜃(しん)、中央部が龍そして、下段が貘(ばく)が彫刻されています(写真参照)
蜃は気を吐いて楼閣を成すと謂れています。社殿彫刻の内、龍は43対、拝殿の格天井の龍は7x7=49、天丼画が一体で合計50体。向拝・唐破風や向拝柱に8体。龍の数は彫刻&天井画で101体に及びます。
龍をはじめとする霊獣は悉く拝殿右側が阿行(口を開いています)、左側が吽行(口を閉じている)の霊獣類が彫刻されています。 
龍以外の霊獣/瑞鳥の素木彫刻は:
獅子が24体、鶏&鳳凰 :24体、
獏 (波の獏を含めて):21体
が飾られています。
鳳凰は、‘鳳’がオスで‘凰’がメス。鳳凰の首は蛇、顎は燕、嘴は鶏とされています。
注) 尾垂(おだれ)とは、軒先部分で垂木の先端を隠すために取り付けられる板を指します。鼻隠しとほぼ同じもののようです。

本殿脇障子(獅子の子落とし)

獅子は子供を産んで3日経過すると、その子を千仞(せんじん)の谷に蹴落けおとし、這い上はって生き残った子どもだけを育てるという言い伝えが残っています。この故事から、我が子に試練を与え、その才能を試すこと。また厳しく育てることを意味します。

本殿 腰組彫刻

腰組彫刻:水犀(ミズサイ)=火災から社殿を護る神獣です。
本殿腰組彫刻(水犀/鼉竜/海馬/亀/鯉等)は、社殿を火災から護る願いを込めて施されたものです。
龍は元来は水の中に棲む水怪とされていますが、天に昇り天高く飛翔する霊獣です。古来、竜巻は龍が天と地を結ぶ時に発生すると謂れていました。日本では、龍は雲をよび雨をもたらす雨乞いの霊獣・龍神とされています。
龍は、蛇が基になっており500年経つと鱗が出てきて、1000年で龍となる。それから500年で角が生え、1000年で翼が出るとされています。その間に龍はさまざまな龍に変化して、次のような様々の龍となります:
1.蚊龍(こうりゅう):鱗のある龍  
2.応龍(おうりゅう):翼のある龍
3.蚪龍(きゅうりゅう):角のある龍
4.あま龍:角のない龍
5.蟠龍(ばんりゅう):
  天に昇ったことがない龍
6.蜻龍(せいりゅう):水を好む龍
7.火龍(かりゅう):火を好む龍
8.龍(せきりゅう):
  鳴くことが得意な龍

司馬温公・甕割り図 (元宮)

司馬光・甕割りの図
司馬光・甕割りの図
中国・北宋時代(平安時代)、司馬光の幼少期のことです.....父が大切にしていた高価な水瓶の周りで遊んでいた友達の一人が、誤って水瓶に落ちてしまいました。 それを察知した司馬光は、噯気もなく傍らにあった石を掴むや水瓶めがけて投げつけました。
すると、水瓶は割れて水と共に友達が流れ出て、一命をとりとめました。  高価な水瓶なので、父に委細を話したところ、叱責されず、むしろ褒められたとのことです。
つまり、"人の命は何物にも代えられない" という教訓です。

本殿彫刻の細部写真(提供:福田豊明氏)

ズームアップ写真の動画は以下のサイトをクリックしてください:

https://youtu.be/26_JyPYCTHA